レーヴェントレイ国中腹の町、レムール。
　そこはバグ教穏健派の中でも熱心な信者達の多いところだった。
　隣の町が急進派であり、地理的にバグ教内の派閥対立の最前線であったことも関係していたのかもしれない。
　ともかく、その町は、傍目から見れば狂信者達の集う、異様な空気に包まれたところだった。

　狂った人間と狂った人間の付き合いの中では、多くの矛盾が闇から闇へと消えていく。
　そうでもしなければ、やっていられなかったのかもしれない。
　まともな人間も少なからずいたに違いない。
　しかし彼らとて、狂った人間とうまく付き合っていく為に、狂ったふりをしていたのだろう。
　本心より動くのは狂人。欺瞞の心を抱くのはまともな人間。

　外には敵意ばかりを向けているくせに、内には愛と正義を説く。
　矛盾を乗り越えて生きていく為に、人は狂う他なかったのだろう。
　格好だけでも真似ているうちに、いつの間にか、誰も彼もが、同じ色に染まってしまったのだろう。
　まさしくレムールの町は、宗教というものをそのまま具現化したような町だった。

　その町に、一つの命が誕生した。
　彼女はエリオットと名付けられた。

　不幸なことに、彼女は頭が悪かった。
　その町に住む狂人達のように、己を誤魔化して生きていく事が、彼女には出来なかったのだ。